「びまん性脱毛」という言葉は聞き慣れない方も多いかもしれませんが、実は皮膚科医が日常の診療でよく遭遇する訴えの1つです。最近髪の薄毛が気になり始めていたという方、もしかしたらびまん性脱毛症の始まりかもしれません。ここでは、びまん性脱毛症の原因や解決法について、最近の研究報告などもとりいれながら詳しく説明していきたいと思います。
びまん性脱毛症って?他の脱毛症とは何が違うの?
「びまん性」とは、病変が部分的ではなく、比較的均等に広がっているような状態のことをいいます。つまり、びまん性脱毛症では髪の毛が全体的に薄くなってくるというのが特徴で、前頭部真ん中の生え際や頭のてっぺん(頭頂部)から進行してくることが多いと言われいます。症状の訴えとして、具体的には以下のようなものがあります。
- 髪のボリュームが減った
- 髪の毛が細くなってきた
- 髪の分け目が目立ってきた
- 頭皮が透けて見える
- 抜け毛が増えた
上記に挙げた例が自分にも当てはまるなと思ったら、びまん性脱毛症である可能性があります。
びまん性脱毛症はその要因などからいくつかの種類に分類されます。
- ①休止期脱毛
- ②女性型脱毛
- ③慢性休止期脱毛
- ④成長期脱毛
- ⑤びまん性タイプの円形脱毛症 など
髪の毛は「成長期」→「退行期」→「休止期」→「成長期」といったサイクルで絶えず生え変わっています。このサイクルのうち休止期は、いわゆる髪が抜け落ちる前の期間で、この時期に多くの毛が抜けてしまうものを休止期脱毛と言います。慢性休止期脱毛は、本来3〜4ヶ月の休止期が6ヶ月以上の長期にわたるため、休止期の割合の髪の毛が増えることで起きる脱毛です。
びまん性脱毛症になる年齢・性別はさまざまで、20~30代でも発症する恐れがあります。症状が進行する前に、早め早めの対応が重要です。
びまん性脱毛症は女性に多い?男性は?
びまん性脱毛症は女性に多いと言われていますが、決して男性で起きない訳ではありません。最近の海外の研究報告では、びまん性脱毛症の方の13%が男性でした[1]。
男性の薄毛の多くは男性型脱毛症(AGA; androgenetic alopecia)によるものとされていて、これはジヒドロテストステロン(DHT)という男性ホルモンが、男性ホルモン受容体と結合し、毛髪を作り出している細胞の働きを抑制してしまうというのが機序になります。一方、びまん性脱毛症の場合は、DHTの関与は明らかではなく、様々な要因が組み合わさって起こると言われています。実際に、AGAなのかびまん性脱毛症なのかを明確に区別することはなかなか難しいケースも多く、2つが合併することで、全体の髪のボリュームが失われるとともに、前髪の生え際か頭頂部、もしくはその両方が薄くなっていくようなケースもあります。
[1] Postepy Dermatol Alergol. 2020 Jun; 37(3): 407–411.
びまん性脱毛症の原因って?〜最新の知見も踏まえて〜
びまん性脱毛症の原因としては以下のようなものが考えられています。
①ストレス(生理的/精神的)
びまん性脱毛症の原因の1つとしてホルモンバランスの乱れが考えられています。特に女性に関しては、女性ホルモンである「エストロゲン」という物質に髪の毛の発育を助ける働きがあると言われており、これが低下することで発毛のサイクルが乱れ、細い毛や抜け毛が増えてしまうという理由が考えられます。エストロゲンが低下する原因として最も多いのが加齢で、更年期障害はこのエストロゲンが急激に減少することでホルモンバランスが乱れ、女性の身体に様々な影響を与えますが、びまん性脱毛症はその中の1つと考えられます。
また、更年期だけでなく、出産の前後でもホルモンバランスの乱れが生じます。妊娠中エストロゲンは過剰に分泌されていますが、出産後はエストロゲンが減少します。特に授乳する人は、母乳を促す「プロラクチン」というホルモンが増える一方で、エストロゲンの分泌が抑制されるため、薄毛や抜け毛がみられるようになります。ただし、この場合は時間が経てば自然によくなることが多いです。
その他精神的ストレスも女性のびまん性脱毛症(特に休止期脱毛症)の原因となる可能性が報告されています[1]。
[1] J Clin Diagn Res. 2015;9:WC01–4.
②栄養不足
びまん性脱毛症の原因の中で比較的アプローチしやすいものとして、近年研究が盛んに行われています。
鉄分はびまん性脱毛症の原因となりうる重要な栄養素の1つと言われています[1]。
他にもビタミンD、ビタミンB12、葉酸が育毛サイクルに役割を果たすことが知られていますが、このうちビタミンDの不足がびまん性脱毛症の原因になる可能性があるとされています[2]。ビタミンDは日光に当たることで皮膚で生成されるビタミンで、髪の毛だけでなく、骨を丈夫にしたり、免疫力アップにも繋がる重要な栄養素の1つです。
また、亜鉛は毛の退行を抑え、毛根を包む毛包の回復を促進する働きがあると言われ、髪に重要な栄養素の1つとされていますが、亜鉛の欠乏とびまん性脱毛症との関係性についてはまだ答えが出ていないというのが現状です[3]。
[1] Postepy Dermatol Alergol. 2020 Jun; 37(3): 407–411.
[2]Postepy Dermatol Alergol. 2020 Jun; 37(3): 407–411.
[3]Ann Dermatol. 2013;25:405–9.
③甲状腺機能障害
甲状腺とは、のどぼとけの下にある蝶の形をした臓器で、身体の代謝を活性化させたり、成長を促進したりするようなホルモンを産生しています。この甲状腺の機能が障害されることで、脱毛の原因となることが分かっています。びまん性脱毛で悩む方は、まず甲状腺機能を評価することをオススメします。甲状腺機能は、近くのクリニックなどの血液検査で測定することが出来ます。
④医薬品やヘアケアに使用する薬剤
薬の副作用で休止期脱毛を引き起こすことがあります。原因となりうる薬剤は非常に多く、内服し始めてから脱毛が生じるまでに長い期間を要するものもあるので、なかなか特定が困難な場合も多くあります。また、髪の毛のカラーリングやパーマで使用する薬剤は、刺激が強く、頻回の使用は髪や頭皮のダメージに繋がります。髪がダメージを受けると、髪のバリア機能が低下し、紫外線や雑菌の影響を受けやすくなり、切れ毛や抜け毛に繋がります。また、頻回のシャンプーも頭皮や髪のダメージに繋がります。頭皮に必要な皮脂までも洗い流してしまい、頭皮の乾燥やフケ、炎症、かぶれから髪の脱毛に繋がります。シャンプーは1日1回にしましょう。
⑥遺伝的素因
AGAや円形脱毛症は遺伝の要素が強いと言われていますが、それらと比較するとびまん性脱毛症は遺伝の要素は少ないと言われています。しかしもちろん絶対にないとは言えないのが現状です。
びまん性脱毛症の解決策
びまん性脱毛症の原因が分かったら次はどうすれば良くなるかですね。びまん性脱毛症は1つ1つの可能性となりうる原因に対してアプローチしていくことが解決策になります。
①ストレスフリーの生活を心がける
言うのは簡単かもしれませんが、びまん性脱毛症の原因はホルモンの乱れからきているということから、ホルモンバランスを整えることで、ある程度改善が得られる可能性があります。例えば、十分な睡眠をとることや適度な運動をとることで、ストレスの解消、そしてホルモンバランスを整えることに繋がります。
②栄養をしっかりとる
鉄分の補充がびまん性脱毛症の改善につながったという報告がありますが[1]、女性型脱毛症や慢性休止期脱毛症には効果がなかったという報告もあります[2]。まずは、お近くのクリニックで鉄分やビタミンDが不足していないか検査してもらうと良いかもしれません。もし不足している場合は、食事やサプリメントなどで補ってあげることで、改善効果が得られる可能性があります。
[1] J Am Acad Dermatol. 2006;54:824–44.
[2]Br J Dermatol. 2002; 147:982–4
③薬物治療
なかなか生活習慣を整えるのが難しい、そういった方は薬を使ってみても良いかもしれません。2%ミノキシジル外用が標準的用法とされていますが、場合によっては男性用の5%ミノキシジルが使用されることもあります。その他、スピロノラクトンやフルタミドなどの抗男性ホルモン剤も検討されますが、基本的にフィナステリドやデュタステリドの服用は避けるべきです。薬物治療を10〜12ヶ月間行い、それでも改善がみられない場合には、外科治療(植毛術)を検討することもありますが、施術による既存の毛髪の脱毛のリスクも男性と比較して大きいことから注意が必要です。
④専門医の外来を受診
もしかしたら他の病気で飲んでいる薬がびまん性脱毛症の原因になっていたり、他の甲状腺疾患などの病気が隠れている可能性もあります。まずは相談も兼ねて専門医の外来を受診してみましょう。
まとめ
薄毛や脱毛は年齢・性別問わず多くの方が悩んでいる問題で、決して自分だけの問題ではありません。特にびまん性脱毛症は様々な原因で起こるため、なかなか1人で解決するのは難しいかもしれません。不安に思ったら1人で抱え込まずに、医師に相談してみましょう。当クリニックでは薄毛や抜け毛を専門とする医師が、しっかりとお話を聞いた上で、1人1人が満足できる髪、ヘアウェルネスを提供していきます。まずは当クリニックにご相談ください。